公開日:2025年4月8日
(更新日:2025年4月8日)
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映画『ブルータリスト』が2025年に第97回アカデミー賞で主演男優賞、撮影賞、作曲賞を受賞したことで、そのモチーフとなった建築様式「ブルータリズム」が再び脚光を浴びています。無骨で力強いコンクリートの質感、重厚な幾何学デザイン――装飾を極力排除し、素材や構造を際立たせるこのスタイルは、1950年代から1970年代にかけて世界中で支持され、日本でも独自の進化を遂げました。そこで本記事では『ブルータリスト』の主人公のモデルとも言われる建築家マルセル・ブロイヤーをはじめ、国内外の名だたる建築家が手掛けたブルータリズムの傑作をご紹介します。
世界の建築史に刻まれたブルータリズムの名作建築
■ブロイヤー・ビルディング(1966年)/マルセル・ブロイヤー
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ハンガリーのユダヤ系の家庭で生まれたマルセル・ブロイヤーは、映画『ブルータリスト』の主人公のモデルとされる人物のひとり。名作「ワシリーチェア」など家具デザインでも知られる20世紀のモダニズムを牽引した建築家です。
彼が設計した「ブロイヤー・ビルディング」(ニューヨーク)は、1966年にホイットニー美術館として開館したブルータリズムの建築物。逆さの階段型ピラミッドのような外観は、重厚でありながら軽やかさもあり、打ち放しコンクリートの粗々しい質感が都市の景観に調和します。
内部は自然光が巧みに取り入れられており、展示空間としての機能性も。2016年から2020年までは「メット・ブロイヤー」としてメトロポリタン美術館の分館となったほか、2021年から2024年までは美術館「フリック・コレクション」の展示場となり、現在はオークションハウス「サザビーズ」の社屋となるなど、時代を超えて美術界にも影響を与えています。
■ソーク研究所(1963年)/ルイス・カーン
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南カリフォルニア・サンディエゴの丘に立つ「ソーク研究所」は、生物医学系の研究所として1963年に設立されました。設計者のルイス・カーンは、20世紀を代表する都市計画家のひとり。エストニア生まれのユダヤ系移民で、ペンシルベニア大学で教鞭をとりながら、光と影を操る建築家として名を馳せた巨匠です。
彼の代表作である「ソーク研究所」は、打ち放しコンクリートと木材が織りなすコントラストが印象的な建築物。6階建て29棟が、トラバーチン(無機質石灰岩の天然石)製の中庭を挟んで左右対称に配置されており、その中央の水路は太平洋と青空へと続きます。科学的探求と自然の調和も象徴する、ブルータリズムの傑作です。
■ユニテ・ダビタシオン(1952年)/ル・コルビュジエ
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「20世紀最高の建築家」と称されるル・コルビュジエは、晩年にブルータリズムへと作風を変化させました。その転換期の傑作がフランス4ヶ所、ドイツ1ヶ所に建設された集合住宅「ユニテ・ダビタシオン」。特に有名なのが南仏マルセイユのものであり、世界遺産にも登録されています。
この建物は、337戸の住宅を収容し、ピロティ、屋上庭園、店舗、体育館、プール、郵便局などを備えた「都市の中の都市」です。最大1600人が暮らせる設計で、現在も住民が生活する一方、一部はホテルとして宿泊可能。人体の寸法と黄金比に基づく「モデュロール」が反映された空間で、特別な一夜を過ごせます。
日本で独自の進化を遂げたブルータリズム建築
■国立代々木競技場(1964年)/丹下健三
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日本の戦後建築を世界に知らしめた巨匠・丹下健三も、ブルータリズムの影響を受けた建築家です。「倉敷市立美術館(1960年)※現・倉敷市庁舎」や「旧香川県立体育館(1964年)」が顕著ですが、代表作「国立代々木競技場」にもその特徴が見られます。
この建物は荒々しいコンクリートの質感に加え、当時革新的だった「吊り屋根構造」を採用。反り屋根や格子、巴型といった日本の伝統美も取り入れられています。1964年の東京オリンピックのために建設された競技場ながら、東京2020オリンピックでも使用されるなど、半世紀以上にわたりスポーツの殿堂として愛され続ける建築となりました。
■佐倉市役所(1971年)/黒川紀章
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都市や建築を有機的に成長させるというメタボリズムを提唱した黒川紀章は、ブルータリズムと未来志向を融合させた異才です。代表作のひとつ「中銀カプセルタワービル(1972年)」は2022年に惜しくも解体されておりますが、名作は国内各地に現存しています。
なかでもブルータリズムの重厚感と、メタボリズムの思想を共存させているのが「佐倉市役所」。コンクリート壁に16個の白い直方体カプセルのようなデザインを組み込むことで、新陳代謝する建築が表現されています。カプセルのような外観ですが、個々には分かれておらず、柱の数を少なくする技術も用いており、内部は見通しがよく開放的。スライディング工法により躯体工事をわずか11日で終わらせたという驚異的な建物です。
再評価されるブルータリズムの魅力とは?
住宅や文化施設だけでなく、教育施設や官公庁などさまざまな建物に用いられてきたブルータリズム。華美な装飾をできる限り排除したシンプルだからこそ、コンクリートやガラスなど素材の持ち味が際立つ建築様式です。映画『ブルータリスト』をきっかけに人気が再燃する今、本記事を参考にしながらブルータリズムに関する知見を深めてみませんか?
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